弾道ミサイルが原子炉建屋に直撃する確率は0.53%

 反原発と「弾道ミサイルが原発に飛んできたら」という議論がありましたので,具体的な命中する確率を試算しました.計算結果として0.53%の確率で原子炉建屋に弾道ミサイルが直撃します.10発連続で弾道ミサイルを発射すれば5.17%の確率で1発以上直撃します.

 

[ はじめに ]

 通常弾頭で核施設を狙うならば弾道ミサイルではなく巡航ミサイルを使います.巡航ミサイルでの攻撃であれば迎撃をされない限り高い確率でピンポイントの攻撃ができます.
 対して,巡航ミサイルと比較して精度の低い弾道ミサイルでのピンポイント攻撃はまずは不可能です.とはいえ可能性がゼロではありません.というわけで今回は原発に弾道ミサイルが着弾する具体的な確率を試算します.

 本試算で対象とする弾道ミサイルは朝鮮民主主義人民共和国(以下北朝鮮)のノドンを対象とします.理由としては,北朝鮮は日本の周辺国で唯一巡航ミサイルを保有していない国家であり,かつ日本を射程に収めるノドンを保有しているからです.

 攻撃目標とする原発・原子炉建屋は柏崎刈羽原発の1~4号機建屋とします.柏崎刈羽原発は日本海に面しており,北朝鮮から近い距離にあります.さらに柏崎刈羽原発の1号機~4号機は短い間隔で並んで配置しています(注1).ちょうど2号機建屋を狙って弾道ミサイルを打ち込むと,2号機が直撃を免れたとしても周辺の1号機,3号機,少し離れて4号機建屋に直撃する可能性があります.

 最後に複数のシナリオ(複数のCEP)に基づいた計算結果も参考として示します.

(注1)
『グーグルマップ』グーグル社(緯度 37°25’34.94″ 経度 138°35’40.88″)( http://goo.gl/maps/LxedH ) 2014年04月14日閲覧

 

[ ノドンの命中精度 ]

 ノドンが日本の本土を射程に収めていることは知られていますが,命中精度についてはよく分っていません.

 弾道ミサイルの命中精度は平均誤差半径(以下CEP)という指標で表します.この指標はCEPが距離R(単位はメートル)の時,複数の弾道ミサイルを発射したらその半分程度は目標から半径Rの円の中に着弾することを示しています.
 ノドンのCEPは独立総合研究所 青山繁晴氏によると600mです(注2).この数字の信憑性は定かではありません.確認のしようがないのでCEP 600mで計算をすすめます.

(注2)
『博士も知らないニッポンのウラ』ミランカ 2007年7月1日配信 より

 

[ 攻撃目標の情報 ]

 次に攻撃目標を調査します.ここでは弾道ミサイルの目標を原子炉建屋に限定します.原子炉建屋以外の設備がどこに何があるのか判らないので計算から省きます.対して,原子炉建屋は原発施設内で唯一配置が広く公開されています.計算に必要な原子炉建屋の面積や配置はGoogle Earthで入手できます.

 

[ 計算のための理論式 ]

( これより式や図がWebでは見づらいので、要約版をあわせて参照してください
genpatsu-slideshow_2014-05-18.pdf
[ https://drive.google.com/file/d/0BxzgHMPKqVatc00zdUVwX191VHM/ ] )

 次にCEPを利用しての目標に命中する確率の理論式です.久保田隆成氏の解説を参考にします(注3).弾道ミサイルが目標から半径rの円の中に着弾する確率は次式となります.

genpatsu-eq1_2014-05-18 [ 式1 ]

 これでノドンの命中精度,攻撃目標の情報,計算のための理論式がそろいました.

(注3)
久保田隆成「射爆撃理論の基礎」『ミサイル入門教室』( http://homepage3.nifty.com/kubota01/bombing.htm )2014年04月11日閲覧 より引用一部変更

 

[ 特定の原子炉建屋を狙って直撃する確率 ]

 原子炉建屋2号機に直撃する確率の計算方法です.

 原子炉建屋nを囲む円Cnの半径をRCn,o,平均誤差半径をCEPとするとき、弾道ミサイルがCn内部に着弾する確率PCn

genpatsu-eq2_2014-05-18 [ 式2 ]

である.
 Cnの内部の任意の位置に着弾する確率をそれぞれ等しいと仮定すると,Cnの面積をSCnnの面積をSnとしたときにnに直撃する確率Pn

genpatsu-eq3_2014-05-18 [ 式3 ]

となる.

genpatsu-fig1_2014-05-18
[ 図1 ]

 

[ 特定の原子炉建屋を狙って他の原子炉建屋に直撃する確率 ]

 原子炉建屋1号機,3号機,4号機に直撃する確率の計算方法です.

 原子炉建屋nの中心から原子炉建屋mの最も遠い点までの距離をRCm,o ,最も近い点までの距離をRCm,iとする.
 nの中心を中心として半径をRCm,oRCm,iとする2つの円を描いてできるリングをCm ,平均誤差半径をCEPとするとき, nを狙った弾道ミサイルがCm上に着弾する確率PCm

genpatsu-eq4_2014-05-18 [ 式4 ]

である.
 Cmの内部の任意の位置に着弾する確率をそれぞれ等しいと仮定すると,Cmの面積をSCmmの面積をSmとしたときにnを狙った弾道ミサイルがmに直撃する確率Pm

genpatsu-eq5_2014-05-18 [ 式5 ]

となる.

genpatsu-fig2_2014-05-18
[ 図2 ]

 

[ 柏崎刈羽原発 建屋1~4号機建屋の配置 ]

genpatsu-fig3_2014-05-18
[ 図3 ] (注4)

(注4)
『Google Earth』グーグル社(緯度 37°25’34.94″ 経度 138°35’40.88″)より

 

[ 計算結果 ]

 ノドンのCEPを 600mとしたとき

  • 2号機建屋を狙って2号機建屋に直撃する確率は0.14% ( 0.1448% )
  • 2号機建屋を狙って1号機建屋に直撃する確率は0.14% ( 0.1384% )
  • 2号機建屋を狙って3号機建屋に直撃する確率は0.14% ( 0.1370% )
  • 2号機建屋を狙って4号機建屋に直撃する確率は0.11% ( 0.1092% )

(カッコ内は数値を丸めると建屋間での差が出ないので、 あえて有効数字を増やした表記をしました。)

 よって合計して,1号機建屋から4号機建屋のどれかに直撃する確率は0.53%.
連続して10発のノドンを発射した場合に,1発でも原子炉建屋に直撃する確率は5.17% .
 この計算結果はあくまでも原子炉建屋への直撃のみを計算しています.原子炉建屋以外にも弱点となる設備はあるでしょうから,実際の危険性はこれよりは大きな確率となります.

 なお柏崎刈羽原発を囲む国道352号を超えて,ノドンが原発の敷地外に着弾する確率は5%程となります.

 参考値として複数のCEPによる直撃の確率を示します.

[ 表1 ]
genpatsu-table1_2014-05-18

 

[ 最後に ]

 いかがでしょうか.通常弾頭の弾道ミサイルを原発に撃ち込むと考えますか?そもそも弾道ミサイルは巡航ミサイルよりも10倍も価格が高いのです.ちなみに核ミサイルに転用できると韓国メディアに絶賛された,我が国のイプシロンは一発30億円以上します(注5).弾道ミサイルしか保有していない国家にとっても割に合う戦略だとは私は考えません.
 なお北朝鮮は化学兵器禁止条約に加盟していません.通常弾頭よりも化学兵器による弾頭の方が命中せずとも効果があるかもしれません.

 そもそも原発を攻撃するのはジュネーブ条約で禁止されています.北朝鮮は必ず原発にミサイルを撃ち込むと主張する方がいます(中国製のミサイルを使ったら中国の関与がバレるのではなかろうか?).仮想敵国とはいえ失礼でしょう.こういう言説を準公人が垂れ流していると,公益企業での外国人への就職差別に繋がります.

(注5)
韓国は核武装が国民の民意です.日本の軍拡を懸念するフリをしながらも羨望のまなざしを向けるのです.

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