非効率な善意 – 臓器移植の支援とユニセフの支援を比べて

1ヶ月前に、あみちゃんの臓器移植を支援のために「あみちゃんを救う会」に寄付をした(*1)。衝動買いに近い感覚だったのを覚えている。その時から考えていたことは、1つの命に多くの寄付を必要とする非効率さだ。この着想を持ったのは、私がユニセフの支援者であることが影響している。
なおここで取り扱う効率とは、赤の他人として寄付をする立場からのものだ。
人によっては強い不快感を持つ考え方だと思うが、私なりに命の尊さを考えた現時点での1つの答えだ。

子供の臓器移植は高コスト構造となっている。
子供の臓器移植では、臓器のサイズの関係でドナーも子供で無ければならない。また現在の日本では、15歳未満では遺言が出来ないという理由で子供の脳死患者は臓器を提供できない。脳死患者以外からの提供が無いわけではないのだろうが、量は限られる。これらサイズと遺言の問題があるため、海外での臓器移植手術に望むことになる。
あみちゃんの場合では渡航費用だけでも1700万円もかかり、その他もろもろ合わせて1億2000万円となっている。簡単にGoogleで調べてみたが、海外での臓器移植は安くても数千万円を必要とする。移植手術の資金が家庭で準備できない場合、寄付で調達することになる。

それに対して、開発途上国で子供が亡くなっている原因は低コストで解決できる。
ここに、ユニセフが送ってきたダイレクトメールにあった1文を紹介する。

開発途上国では、生まれてから1歳までに亡くなってしまう赤ちゃんは年間約700万人、5歳の誕生日を迎えられずに命を失ってしまう子供は年間1100万人にものぼります。
しかしそのほとんどは、ごく簡単な方法で、しかも低コストで、防ぐことが出来る病気です。

続けてそのダイレクトメールを元に、主な寄付金の使い道とともに、(あみちゃんが必要としている)1億2000万円でどれだけのことが出来るかを示す。

  • かぜをこじらせて、あるいははしかなどの感染症から肺炎になり死亡する乳幼児は年間250万人。それを防ぐための肺炎に効く抗生物質は、1人5日分で約30円。
    1億2000万円あれば、400万人の子供に5日間の抗生物質を投与できる。
  •  下痢になり脱水症で死亡する子どもは年間160万人。ORS(経口補水塩)を安全な飲料水に混ぜて飲ませるだけで命を救うことが出来る。ORSは1袋1回分約7円
    1億2000万円あれば、1700万袋を提供できる。
  • 感染症のうち、はしかだけでも死亡する子どもの数は年間55万人。はしかを含め8種類(はしか、結核、百日ぜき、ジフテリア、破傷風、ポリオ、横熱、B型肝炎)の予防接種ワクチンのコストは1人分約60円。
    1億2000万円あれば、200万人の子どもたちに予防接種ワクチンを提供できる。
  • 栄養不足により衰弱した子どもはかぜや下痢といったありふれた病気で死亡する。衰弱した子どもの体力を回復させる栄養補助食は、1食約15円。
    1億2000万円あれば、800万食分の栄養補助食を提供できる。
  • 出産前後のケアを改善することで、多くの赤ちゃんの命を守ることが出来る。1回の出産に必要な清潔で安全な器具・消毒液・医薬品など一式は約1580円。
    1億2000万円あれば、7万6千回分の清潔で安全な出産をサポートできる。

寄付をする側から見れば、あみちゃんも開発途上国の子供たちも赤の他人であることには変わりない。とは言っても日本人である私からすれば、アフリカ(*2)で飢餓や感染症で死にかけている子供の命よりも日本人のあみちゃんの命の方が尊い。私だけではなく、私と同様に支援者の方々も同じように考えるだろう。これはちょっとしたナショナリズムだ。
あみちゃん1人とアフリカ人1人を比べたときには問題が無い。では、

  • あみちゃん1人と抗生物質400万人分では?
  • あみちゃん1人と予防接種ワクチン200万人分では?

こういった風に比較してみると、あみちゃん1人の為に寄付をするよりもユニセフに寄付をしたほうが効率的だと思えてくる。実際のところ、ワクチンを200万人に与えて何人の命が救えるかわからないが(千人とか万人の単位かな?)。命1つ救うコストが違いすぎることは判る。
もちろんアフリカ人が何人死のうが気にも留めない方もいるだろうし。どの命を救いたいと考えるかは人それぞれだ。

最後に
私があみちゃんを支援したことを後悔しているように思われるかもしれないが、そんなことは無い。逆に、このテーマを与えてくれたあみちゃんに感謝している。しかしこれから先、私はもう臓器移植支援の為にまとまったお金を寄付することは無いだろう。小額の寄付はするだろうが。

*1
Orokot Note:心臓移植を支援してみるテスト

*2
ここでアフリカを例に挙げた理由は、ユニセフのターゲットがアフリカに集中しているためだ。具体的な名前を挙げたほうがイメージもしやすい。

#2005-03-14:
FPNに本エントリーを投稿したところ、コメントがつきました。こっちには付いてないけど。
FPN-非効率な善意 – 臓器移植の支援とユニセフの支援を比べて